コラム

高級老人ホームの入居一時金はどう償却される?返還金の計算、90日ルール、倒産したときに戻る額、一時金型と月払い型の比べ方

公開日 玉苑編集部
高級老人ホームの入居一時金はどう償却される?返還金の計算、90日ルール、倒産したときに戻る額、一時金型と月払い型の比べ方

高級老人ホームでいちばん金額が動くのは、入居一時金(前払金)です。玉苑に掲載している施設のうち一時金の記載がある1,077施設で、上限額の中央値は2,160万円。3,000万円以上のプランがある施設が390、1億円以上が56あります。ただ、比べるときに見るべきなのは総額ではありません。その金額がどう減っていくか、途中でやめたときにいくら戻るかのほうが、はるかに効きます。

この記事では、入居一時金の仕組みを、法律の決まり・実際の分布・トラブルになりやすい点の順に整理し、最後に契約前に確かめる項目をまとめます。

入居一時金は「家賃の前払い」であって、権利の購入ではない

有料老人ホームの入居一時金は、入居後の家賃にあたる部分(施設によっては介護や生活支援の費用の一部)を、前もってまとめて払うものです。マンションの購入とは違い、居室の所有権を得るわけではありません。「終身利用権方式」と呼ばれる契約で、その居室に終身住む権利を得る代わりに、払った金額は住んでいる間に少しずつ「使った」扱いになります。これが償却です。

途中で退去した場合は、まだ使っていない分が返ってきます。逆に言えば、償却が終わった後に退去しても、返ってくるものはありません。

玉苑に掲載している1,077施設の入居一時金(上限額)。中央値2,160万円、1億円以上が56施設。月払いプランがある施設は52% 玉苑掲載データ(2026年9月時点)

いまの高価格帯で目立つのは、一時金の下限が「0円」の施設が半数を超えることです。プランの記載がある1,113施設のうち580施設(52%)に、一時金なし(または少額)で月額を高くする月払いプランがあります。同じ建物・同じ居室で、前払いするか毎月払うかを選べる。この選択を正しくするために、償却の仕組みを知っておく必要があります。

償却の仕組み——3つの数字で返還金が決まる

重要事項説明書と入居契約書には、入居一時金について次の3つが必ず書かれています。

返還金は3つの数字で決まる:初期償却率、償却期間、返還金の計算式

初期償却率

契約した時点で、返らなくなる割合です。初期償却30%なら、入居した翌日に退去しても(90日以内の特例を除く)、一時金の30%は戻りません。高価格帯では20〜30%が多く、0%の施設もあります。初期償却は「入居時に施設側が負う空室リスクや準備費用の分」と説明されることが多いですが、法律で上限が決まっているわけではありません。

償却期間

初期償却を引いた残りを、何年かけて減らしていくかです。5年・7年・10年・15年などがあり、この期間を過ぎると入居一時金は全額が償却され、返還はゼロになります。厚生労働省の指導指針は、償却期間を入居者の想定居住期間(平均余命など)を勘案して定めるよう求めていますが、実際の年数は施設によって大きく違います。

返還金の計算式

途中で退去したときにいくら返るかは、上の2つから計算できます。多くの施設が採用しているのは、初期償却後の残りを月割りで均等に減らす「均等償却」です。

返還金 = 入居一時金 ×(1 − 初期償却率)×(償却期間の残り月数 ÷ 償却期間の月数)

たとえば入居一時金3,000万円、初期償却30%、償却期間5年の住まいに2年住んで退去すると、3,000万円 × 0.7 × 36 ÷ 60 = 1,260万円が返ります。同じ3,000万円でも、初期償却20%・償却期間15年なら、2年目の退去で3,000万円 × 0.8 × 156 ÷ 180 = 2,080万円です。

入居一時金3,000万円の返還金の推移。初期償却30%・5年償却は5年で返還ゼロ、初期償却20%・15年償却は2年目退去で2,080万円 計算:玉苑編集部

想定する入居期間より償却期間が短いと、実質は払い切り

初期償却30%・償却期間5年という条件なら、5年経った時点で入居一時金は全額返らなくなります。「10年は住むつもり」で入るなら、この一時金は実質的に払い切りです。それ自体が悪いわけではありませんが、返ってくる前提で資金計画を立てていると、あとで食い違います。

逆に、償却期間が長い施設は、途中で退去したときの返還が多くなります。上の図のとおり、同じ3,000万円でも、償却期間5年と15年では3年目に退去したときの返還金が大きく違います。長い償却期間は「返ってくる可能性を長く残す」条件であって、必ずしも「高い」条件ではありません。

玉苑に掲載している施設の入居者の平均年齢は中央値で88.9歳です。入居時の年齢と健康状態から現実的な入居期間を見積もり、それより償却期間が長いか短いかで、一時金型の意味が変わります。

90日ルール——契約から3か月以内なら原則全額が戻る

入居一時金には、法律で決められた短期解約の特例があります。契約締結日から90日以内に入居者から契約解除の申し出があった場合、または入居者の死亡で契約が終了した場合、入居一時金は原則として全額返還されます。2012年度の老人福祉法改正で、すべての有料老人ホームに義務づけられました。

ただし「全額」には注意が要ります。差し引かれるのは、実際に入居していた期間の利用料(日割りの家賃・管理費・食費など)と、居室の原状回復費用です。東京都消費生活総合センターには、夫婦2人分1,100万円の一時金を振り込んだ直後に事業者の経営不安を聞き、翌日に解約を申し出た事例が寄せられており、法律上は原則全額返還、ただし入居していた期間の利用料と原状回復費は請求され得る、と案内されています。

90日ルールは「試しに住んでみる」ための制度としても使えます。体験入居とは別に、契約後3か月は、合わなければ一時金を失わずに退去できる期間です。

保全措置——守られるのは500万円まで

万一運営会社が破綻した場合に備え、有料老人ホームは入居一時金の返還債務について保全措置を講じることが義務づけられています(老人福祉法第29条第7項)。方法は、銀行等による債務保証、保険会社の保証保険、信託会社との信託契約、認定を受けた団体との保全契約などです。

問題は上限です。保全しなければならない額は、「前払金のうち、契約で定めた予定償却期間の残存期間に係る額」または「500万円」のいずれか低いほうです。一時金5,000万円を払っていて、万一運営が破綻した場合に制度で守られるのは500万円まで。残りは運営会社の資産状況と、事業を引き継ぐ会社が現れるかどうかにかかっています。

なお、敷金(家賃6か月分が上限)として受け取るものは保全措置の対象外です。

高価格帯こそ、この上限の低さが効きます。一時金が大きいほど、制度で守られない部分が大きくなる。運営会社の財務(上場会社なら決算、非上場なら重要事項説明書の運営法人情報)と、施設の入居率を見る理由はここにあります。玉苑に掲載している施設の入居率は中央値88.9%ですが、80%を下回る施設も1,073施設中298あります。入居率が低い施設は、空室が多いという意味だけでなく、事業として持続しにくい可能性を含んでいます。

一時金型と月払い型——損益分岐は「何年住むか」

同じ施設に一時金型と月払い型がある場合、どちらが得かは入居年数で決まります。

考え方は単純です。一時金型の月額と月払い型の月額の差(月払い型のほうが高い)で、一時金を割ると、何か月で追いつくかが出ます。たとえば一時金3,000万円・月額30万円のプランと、一時金0円・月額50万円のプランなら、差は月20万円。3,000万円 ÷ 20万円 = 150か月、つまり12年半を超えて住むなら一時金型のほうが総額は少なく、それより短ければ月払い型のほうが少なくなります(一時金の返還を考えない場合)。実際には途中退去時の返還があるので、一時金型の不利は少し縮まります。

もう一つの違いは、値上げへの耐性です。一時金型は家賃を前払いしているので、家賃部分の値上げは原則として及びません。管理費と食費は改定の対象になりますが、家賃を含めて改定される月払い型より影響は小さい。2026年は物価高を理由にした利用料の改定が各社で行われており、この差は以前より意味を持っています。

一方で、一時金型は「まとまった現金を先に渡す」ことでもあります。上で見た保全措置の上限500万円と、運営会社の財務を合わせて考えてください。

死亡退去のときの返還金は、相続の対象になる

入居者が亡くなって契約が終了した場合も、償却期間が残っていれば返還金が発生します。この返還金を受け取る権利は相続財産になり、相続人が施設に請求します。契約時に「返還金受取人」を指定する施設が多く、指定がないと相続人全員の同意が必要になって手続きが止まることがあります。

消費生活センターなどには、「3年住んで亡くなったが一時金が1円も戻らなかった」という相談も報告されています。初期償却が大きく償却期間が短い契約では、実際にそうなります。契約書の返還規定を、本人だけでなく家族が読んでおくべきなのはこのためです。

契約前に重要事項説明書と契約書で確かめる7項目

  1. 初期償却率は何%か。0%の施設もある
  2. 償却期間は何年か。自分の想定入居期間より長いか短いか
  3. 返還金の計算式はどう書かれているか。均等償却か、それ以外か
  4. 90日以内に退去した場合、差し引かれる費用は何か(日割り利用料・原状回復費)
  5. 保全措置の方法は何か(銀行保証・保険・信託・保全契約)。保全額はいくらか
  6. 月払いプランはあるか。あるなら月額はいくら違い、損益分岐は何年か
  7. 返還金受取人を指定できるか。死亡退去時の手続きはどうなるか

これらは重要事項説明書と入居契約書に必ず記載があります。口頭の説明で終わらせず、書面の該当箇所を見せてもらってください。玉苑では、各施設のページに一時金の幅と月額の幅を並べて載せています。まず幅で候補を絞り、次に書面で償却条件を確かめる、という順で進めてください。

出典

  • 老人福祉法第29条(前払金の保全措置・短期解約特例)、老人福祉法施行規則
  • 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」
  • 公益社団法人全国有料老人ホーム協会「保全措置について」
  • 東京都消費生活総合センター「有料老人ホームに1100万円の一時金を支払って契約したが、すぐ解約した。返金されるか」
  • LIFULL 介護「保全措置|老人ホーム倒産時に入居金を保障する制度」「入居金の仕組み|老人ホームの入居金と返還規定」
  • 玉苑掲載データ(重要事項説明書・自治体公表資料からの集計、2026年9月時点)